イベント / EVENT
平成25年度 第4回 Q&A
第4回 2013年9月19日(木)
超伝導人工原子のインパクト~ より日常的スケールでの量子世界の実現 ~
蔡 兆申 (国立情報学研究所 客員教授(山本プロジェクト:最先端研究開発支援プログラム))
講演当日に頂いたご質問への回答(全27件)
※回答が可能な質問のみ掲載しています。
"重ね合わせる"をもう少し説明してください。
古典的には、例えばバイオリンの一本の絃に現れる多数の振動モードを想像してください。量子重ねわせも同様なイメージです。この場合波の振幅は状態の確率に関係しています。
講座の最後に流していた量子コンピュータの説明映像は、どこで見ることが出来ますか。わかりやすくて素人でも興味が持てたので、もう1回見たいのです。
以下のURLでみられます: *1ビット http://jpn.nec.com/rd/innovation/innovative/quantum/05.html、 *2ビット http://jpn.nec.com/rd/innovation/innovative/quantum/07.html
また本講演のビデオ録画が国立情報学研究所のHPで見れるようになるはずですので、そちらもご覧ください
量子コンピュータと並列処理の関係
量子コンピューターは量子並列処理を行います。これは古典的な並列処理とイメージ的には見ています。
量子コンピュータのハードウェアのイメージ、ソフトウェアのイメージ
ハードウェアは超電導ジョセフソン集積回路をイメージしてください。ソフトウェアは「量子アルゴリズム」遂行するプログラムです。イメージ的には楽譜のようなものです。
昨日、東工大公開講座に於いて、核スピンを利用した量子コンピュータのレクチャーがありました。その時の「重ね合わせ」の説明では、核スピン自体が回転することにより、二次元の位相を持つ事を指すと伺いました。本講演でおっしゃる「重ね合わせ」は何を指すのでしょうか?量子の状態として説明頂ければ幸甚です。
核スピンとの比較では、核スピンを超伝導ループに捕獲された磁束に置き換えればいいと思います。この磁束は磁束量子に相当し、超電導ループを周回する超伝導電療を伴っています。重ね合わせはループ中を時計回りに電流が回る状態と反時計回りに電流が回る2つの量子状態の重ね合わせです。
p5のωa, ωbで示される式は、核スピンとその軸の回転を表すのでしょうか?
ここでのωは量子波動の周波数を一般的に表現したものです。
「オセロの例」で、振幅を表わすα、βの意味がよくわかりませんでした。オセロの「石」が斜になっているのは何故でしょうか?45度でしょうか。
同様に「位相」のφの値は、0、∓π/2以外の 1/4π 1/8π その他の値は、【文字不明】れるのでしょうか?
αβはそれぞれ2つの量子状態振幅です。石の角度が重ね合わせの度合いを表していて、角度はαβの値により変化します。45度ですと、観測すると黒のでる確率が75%(α=0.75の平方根)、白が出る確率が25%(β=0.25の平方根)となります。
位相も連続的に変化できます。
「量子ビットループの時計回り」と「同反時計回り」の電流をどのようにして「重ね合わせる」のか。「ビットをどうやって創るのか」
もっとも一般的には、ある外部磁場の状態で、この二つの状態間のエネルギー差に相当する波長をもつマイクロ波パルスを照射し、重ねわせを制御します。パルスの持続する時間を調整し、重ね合わせの度合いを調整します。
「量子重ね合わせ」と「古典波動の重ね合わせ」の相違点は、どのようなことなのかお教えください。
レーザ波はどちらをイメージすれば良いのでしょうか?
一口で言えば、量子重ね合わせ状態は量子力学の法則があからさまに適用される状態です。たとえば量子絡み合いといった不思議間状態は古典波動からは生まれません。
量子計算の速度は、非常に速いとはいうが、量子アルゴリズムは、限定的な用途しか出ていない理由は何でしょうか。また、非決定性計算機と比較した時の計算能力は?
深い数学的理由は僕には説明できませんが、古典計算の困難さをうまく乗り越える量子アルゴリズムはまだそんなに多く発見されていません。
2^N個を同時に計算できても、1つの状態しか観測できないので、どのように考えればよいのでしょうか。
量子計算を遂行する場合、観測は行いません。アルゴリズムが終了した時点で初めて観測し、それが問題の答えになっています。
将来、現在のスーパーコンピューターが量子コンピュータに変わるのでしょうか。
最初に作られる量子コンピューターはスーパーコンピューターを置き換えません、単にその量子アクセラレータのような役目を果たします。しかしエネルギー消費量を考慮すると、長期的にはすべて量子回路に置き換わる可能性もあると思います。
現在のスーパーコンピューターがしている計算を量子コンピュータが計算できるようになるのでしょうか。
現在のスーパーコンピューターが苦手としている計算のうち、量子コンピューターがうまく計算できるものがあります。
一般家庭でいつ量子コンピュータが使われるのでしょうか。
初期のものは一般家庭では使われないと思います。
日本の量子コンピュータの研究レベルは、世界トップなのでしょうか。
残念ながら現時点では米国での研究の方が我々より少々進んでいます。
量子ビット(コンピュータ): 確率でしかあらわせない状態の重ね合わせるビットを組み合わせる事で、正確な計算が同時に大量に出来る仕組みのイメージができません
量子状態は確率分布をを持ちますが、それを100%近くに調整して読み出しを行います。オセロのたとえでは、石をほぼ水平になるように調整し読み出すとほぼ毎回黒(または白)が出ますます。
超伝導量子ビットによるコヒーレンス時間は、長く延びる可能性はあるでしょうか?例としては高温超伝導物質です。
コヒーレンス時間は伸びると思いますが、高温超電導体にはあまり期待をしていません。良質なトンネル接合を作ることが困難な点や、エネルギー専一の原因となる準粒子が絶えず存在する材料だからです。
インド以来の数学にLatticeの構造がある。
X and Y
/ \
X Y
\ /
Y or X
(ex or)
これは、古代の人が自然の摂理を重ね合わせとしてみたのではないでしょうか?
インドの古代数学には詳しくないですが、東洋の「陰」「陽」の概念も、古代人が考え出した自然界の重ね合わせ状態でしょう。もっとも量子重ね合わせではありませんが。
非常に少ない量子を巨視化すると常識的(古典的)粒子になってしまうのではありませんか?
量子ビットを多数にすると粒子になってしまわないのですか?
「非常に少ない量子を巨視化すると常識的(古典的)粒子になってしまうのではありませんか?」 ⇒ その通りです、その傾向はあります。したがって我々が最初に超電導回路で量子コヒーレンスを作り出した時のインパクトは大きかったのです。
「量子ビットを多数にすると粒子になってしまわないのですか?」 ⇒ 量子計算では、論理計算は1ビットと2ビットの操作に分解されて行うので、一度に結合させるのは最大2つの量子ビットです。したがって量子性は比較的保ちやすいのです。
超伝導人工原子を用いた量子コンピュータにおいて、論理ゲート、たとえばアダマール・ゲートなどは、どのように実装されるのでしょうか。研究はどの程度進んでいるのでしょうか。
アダマールゲート操作は、超伝導人工原子に2/πに相当する長さのマイクロ波パルスを照射することで実行できます。
スパコンの講習会に出席しても、量子コンピュータの話をほとんど聞くことができないのですが、量子ビットを用いた演算素子の実用化の可能性や技術的な壁について教えてください。
スーパーコンピューターを凌駕する量子コンピュータの実用化には、それなりに大規模な量子ビットの集積化が必要です。それ以外にも、量子ゲートの動作や読み出しの正確性ももう少しの進歩が必要です。
先日、9/14「バイオイメージング学会」で「光で探る脳の活動」という講演の中で、蛍光顕微鏡の中に「2光子励起顕微鏡」の話がありました。これは、より波長の長いコヒーレントな光(レーザー)を強く当てると1光子では、より波長の短い光が必要なところ、長い光でも蛍光物質の電子を励起させ蛍光を発することができるというのだが、これは光電効果には反しないのでしょうか。
2光子、もしくは多光子プロセスによる量子状態の遷移は、エネルギーの保存されたよく知られた効果です。一般的には、光子数が増えるほど遷移確率は下がります。
人間以外(他の生物や機械・分子など)が、観測した時も状態は古典的になるのでしょうか?また、その後量子的な状態へは、どのように戻るのでしょうか。
その通りです。量子系は周りの系と相互作用し、やがてはエネルギーの散逸などが起こり量子性を失います。外部との相互作用が止まると基底状態に戻ります。
数年前の量子コンピュータの本では、2~≠2ビットしかできていないと書かれていましたが、今は、30≠2ビットものデバイスが現実にできるのですか。
超伝導量子ビットでは、現状では3~4量子ビット程度のものが動いています。
量子コンピュータは(30量子ビット)アナログ状態を30個集めたと考えてよいのでしょうか。
それでは不十分です。単なるアナログ的な大きな重ね合わせ状態ではなく、万能量子ゲートに動作を分解し、かつ量子誤り訂正を行える回路構成を作り上げる必要があります。
重ね合わせ状態の保存についての方法、またどのくらい長い時間が必要か等、具体的にお願い申し上げます。
量子誤り訂正を遂行するためには、量子ゲート操作の精度は99.9%の忠実度を保たなくてはなりません。これを保つためには量子状態を長く保たなくてはなりません。より具体的には、ゲート操作時間を仮に1ナノ秒と仮定すると(これは量子ビットのエネルギーギャップで上限が決まる)、コヒーレンスは1ナノ秒/(1-99.9%)=1マイクロ秒程度最低限必要です。このようなコヒーレンス時間は既に達成されています。
D-waveという会社が量子コンピュータを実用化したニュースをみました。どの程度、活用されているのでしょうか。Google NASAの利用に関しても取り上げられていましたが、どのような状況でしょうか。
D-waveのコンピュータはこれまで話してきた量子ゲート操作による量子計算機と異なり、量子断熱計算を行うもので、その目的は「最適化問題」と解くことです。これまでに最大で500ビット程度のマシンの作成に成功しています。理論的には、この方式ではこのような問題を効率よく解くことはことは難しいと予言されていました。第3者による評価が現在行われていますが、現状では残念ながらこの予想が的中しているようです。
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