イベント / EVENT
平成30年度 第1回 Q&A
第1回 2018年7月10日(火)
屋内測位・ナビゲーション技術
-GPS電波の来ない建物内でも道案内-
講演当日に頂いたご質問への回答(全45件)
※回答が可能な質問のみ掲載しています。
音で測定した場合もマルチパスのような問題は発生しないのですか
マルチパスは生じますので、対策が必要です。ただし音波は電波より短い距離で減衰しますので、対策は比較的楽な面もあります。位相一致法では 2ms程度の音響バーストを使っていて、これは空間で70cmほどの波形になります。マルチパスの第2波(セカンドパス)は床や壁面で反射する音波ですが、それとの行路差が70cm以上あれば、セカンドパス以降を排除して直接波(ファーストパス)だけ取り出せます。
超音波位相一致法で、家具や壁からの乱反射や回折、人物の移動の影響を避ける仕組みについて教えてください。
前の質問にも関連しますが、使う音響バーストを短くしておいて、直接波だけとり出すようにしています。反射体や障害物の配置によってはそれが困難な場合もあり、誤差の原因になります。通常、スピーカーを天井に設置することで、有効に直接波を検出できます。
距離3mでの実験結果が紹介されていますが、もっと広い場所ではどうですか。例えばこの会場ほどの広さで人が大勢いる場合はどうですか。
10メートル程度までは実験して、有効に測位できることを確認しています。それより長くなっても音響のレベルさえ確保しておけば信号検出はできますが、一般に直接波とセカンドパスとの差が短くなりやすいので、その面で困難が生じやすいと考えています。
屋内測位の場合、建物名や部屋番号の情報も配信できると便利ですが、それに向けた規格化の動きとかはありますか。
その方面は詳しくなく、的確に答えられず申し訳ありません。国際的にはCityGML / IndoorGMLなどと称する地図情報標準化の動きがあるようです。空港など特定用途の施設では、すでに業界標準があるそうです。
今現在ビルなどで清掃や警備用のロボットが稼働していますが、それらはどのような原理で自分の位置を把握しているのですか。
製品が数多くあり、フォローできていませんが、触覚センサーや超音波レーダーの距離情報を使うもの、カメラの視覚情報を使うものなどある印象です。地図をどう自動作成/修正するかが、鍵のようです。
目の不自由な人のための駅や危険な所を回避するための仕組みとして使えないか。駅なかに限定して集中展開すれば役に立つのでは。
視覚障碍者へのサポートは屋内ナビゲーションの中心的課題のひとつで、多くの試みがあります。米国の空港では視覚障碍者が特別なサポートなしに空港を利用できるようにすることを目的としたプロジェクトが立ち上がっています。
屋内測位技術を応用した公共建築物での視覚障害者等への移動支援ツールとして期待ができると感じました。ただし視覚障害者等の場合、グラフィカルなユーザーインターフェイスは不可であり、点字(ただし視覚障害者でも点字ユーザは少数)、主として音声によるインターフェイスが重要と思われる。この方面での研究課題としての認識はございますか。※これは晴眼者にとっても歩きスマホ防止につながると思います。
そのようなガイダンスをするスマホアプリの有名なもので BlindSquare という製品があります。http://www.blindsquare.com/ などを参考にしてみてください。
屋内測位が正確にできたとしても、建物や地下街の正確な地図が定常的(恒常的)に提供されないと、一般の道案内には使えないのではないでしょうか。Google等の商用地図業者が定期的に地価や建物内地図を更新してくれないと・・・ ※λ=8.5mm単位正しい?
屋内ナビゲーションのためには、測位技術と地図の作成/維持が両輪となります。わたしは前者を扱ってきましたが、後者を専門とする研究者も多く、成果に期待しています。
S+Mなどで3Dモデルを作っておいて、カメラの位置を後から推定するといった方法で、屋内測位をできる可能性もあるでしょうか。精度が出ないでしょうか。
光学的手法として、登録画像とカメラ画像のマッチングによる測位も多く研究されています。実験室レベルでは非常に高い精度の達成も報告されています。効率的に使うためには、特徴量をどのように抽出・整理するか、思いがけず写り込む物体にどう対策するか、などの実用にむけての課題があるようです。
室内で音を測る際、音響の反射によるゆがみとかは影響するのでしょうか。位相一致法だと、その影響が除かれていると理解して良いでしょうか。
反射した音波と混じると位相一致法の測定誤差になります。前の質問にもありましたが、直接波と反射波の行路差を 70cm以上確保できるかがカギです。
アプリのソースコードは公開されていますか。再現したいです。
現在はまだ性能向上のため、修正しつつ使っている状況です。安定しましたら、ぜひご期待に応えたいと思います。
GNSSがデブリ等にぶつかって壊れることはないのですか。
事例は聞いていませんが、ありうることと思います。
QZSSをたくさん打ち上げればいいと思いますが、難しいのですか(コスト?)。
GNSSやQZSSの打ち上げ、維持には多くのコストがかかり、日本の総理府としては、必要最小限の数(QZSSについては少なくとも天頂付近に 1機ある)の衛星維持を当面の目標としているようです。現在、非常に多数の測位衛星が上がっていて、QZSSなしでも天頂付近に他国の衛星のあるのが普通なので、そういう状況で日本独自の衛星の必要性を訴えるのはなかなか困難なようです。GPS衛星にはない高精度測位モードの搭載など、独自性を出そうとしています。
高精度な屋内測位を使ったビジネスはどんなものが考えられますか。
日常、あまり考えていない課題ですが、一般にこのようなサービスは利用者個々がコストを負担することは考えられなくて、むしろナビゲーションのインフラ作成・維持について、新しい需要が起きるのではないでしょうか。
ドップラーセンサーとかでは位置はわからないのでしょうか。(動いていないとわからない?)
通常のドップラーレーダーは距離(位置)は検出できず、測定範囲にある動く物体の、レーダー方向の速度成分のみ計測します。位相一致法はもともと距離を測る手法でしたが、ドップラー量も図れるようにして、3次元位置と3次元の速度ベクトルを検出する「拡張位相一致法」も開発しました。実験室では数m/秒で動く物体の速度を mm/秒精度で測れました。
iBeaconが普及していない理由は何だと思われますか。
プライバシーの問題とか、いろいろ言われていますが、個人的には測位精度の不安定さに原因があると考えています。数メートルの誤差の生じることがあるようです。
超音波計測では、マルチパスは発生しないのでしょうか。
前に同様の質問にお答えしました。
平地ではなく、家具のある室内で超音波計測でナビゲーションはできますか。
家具そのものは問題ありませんが、それにより測定音波が隠されたりするとうまく行きません。計測用スピーカーをいつも見通せる場所に設置するのがカギです。
先生の目指すユースケースはなんでしょう。一精度をどこまで必要とするか。
精度は技術のアピールとして追及していますが、屋内ナビゲーションの実用においては10センチメートル、せいぜい数センチメートルの精度があれば十分でしょう。それを安定して達成できるシステムを、実用研究として試みています。屋外と屋内のシームレスな(つなぎ目を感じない)ナビゲーションの達成が夢です。
掲示板光の中に位置情報を埋め込む技術の活用は考えられないでしょうか。
講演でお話しした地下鉄ナビも、広い意味では掲示板を使うものでした。掲示板(サイネージ)の発光で情報を伝送する技術は「可視光通信」といいます。現在まさに、可視光通信を屋内測位に使う研究を行っていて、よい結果を早くお話しできるようにしたいと思っています。
GPS衛星について、衛星からの電波は「正しい時刻」「緯度」「経度」「高度」の4度数が必要なので4つの衛星が必要との話でありましたが、それぞれ1台の衛星はすべての情報を送信しているはずなので位置を得るためには3台で良いのではないでしょうか。
本質的に衛星の送信しているのは時刻だけです。受信位置には電波は遅れて到着しますので、4機の衛星はすべて異なった時刻を示しているように見えます。衛星の軌道情報を援用して、そのようにずれた時刻を観測するのはどの位置か、という方程式を解きます。その方程式の未知数が、「正しい時刻(衛星が距離ゼロにあったと仮定したときの時刻)」「経度」「緯度」「高度」の 4つというわけで、少なくとも 4衛星の同時観測が必要です。
加速度からのデータを単純に積分した場合(エレベータに乗って上下動の時)誤差が大きくなった経験があります。上下動(高度)の推定には不向きですか。それとも何か特別な計算が必要ですか。
スマホの力学センサーにも加速度センサーはあって、自律航法ナビに使われますが、その誤差を除去するのはなかなか困難です。このような解析のアルゴリズムにカルマンフィルター、パーティクルフィルターなどの手法があって、それを使う研究も多いです。
光と光は相互作用しないので、室内GNSSに使えませんか。マルチバスは偏光を使えば除去できます。
面白いご提案なので、考えてみたいと思います。なお GNSSの電波も偏波面(偏光面)を持っていて、反射ごとに反転します。これを使ってマルチパス量の推定をする研究を見たことがあります。
VPS(Visual Positioning System)などデバイスの方向を計測するシステムの研究について情報があれば教えてください。
わたしは扱っていませんが、新潟大学の牧野秀夫先生がその研究をされていました。今度、NIIの産官学連携塾にお招きするので、そのお話を期待したいです。
水中の物体の測位はどのように起こるのでしょうか。GNSSの電波は水中は伝播しないだろうし、音波にしても水中と空気中では速度が違うだろうし・・・
水中音波は空気中とちがい、あまり減衰せずに数千メートルを進みます。その特性を活かしてソナー、魚群探知機などの技術が発展してきました。医療用の画像診断装置である超音波エコーも水中超音波の応用です。音波応用としてはむしろ空中より早く発展しました。ただ、水中での測位ということになると潜水艦などが使う技術となって、軍事がからむためか、ほとんど情報はありません。なお、水中の音速は 1500m/秒ほどで、空気中の 4~5倍の速度です。
各GNSSの時刻同期はどのようにしているのでしょうか。例えば、うるう秒調整のその瞬間のタイミングでは?
各衛星には原子時計が積まれていますが、当然、衛星ごとに誤差があります。米国のGPSではその運用局が誤差を観測し、現在の各衛星の時計の誤差を、GPS電波に乗せて送信しています。受信機はそれを受信し、衛星の時計情報を修正することで、正しい時刻を得ます。正確な軌道情報も送信しているので、これで修正します(以上をエフェメリスと呼んでいます)。GPS受信器はこのような動作をしています。
結局、「表参道駅」の実験は、成功、失敗(実用化無理の結論)のどっちだったのでしょうか。実験主催者の評価報告書では?
結論めいた論評は避けたいです。しかし、実用化にはまだいろいろ修正したい点がある、との印象ではあります。
現在さまざまな方式の屋内測位技術が模索されていますが、この中で、スマートフォンなどの携帯端末向けとして将来もっとも広く普及するのはどの方式だと思われますか。予想をお聞かせください。
スマートフォン搭載の力学センサー(加速度、角速度)などを総動員し、自律航法で行うナビが最も有望と思います。しかし、要所ごとに正しい座標を得て修正する必要があり、今回ご紹介した音響測位技術はそのように使われるだとうと思っています。
P33においてTOAよりもTDoAの方が誤差が大きいように見えます。ただし、場所によってはTOAの方が誤差が大きくなると思います。P34でTOAに移行した具体的な理由が知りたいです。
TDoAでも「たまたま」正しい位置に測定点が現れることもありますが、信頼のおける結果とは思えません。計測としては、統計的なばらつきの少なさが大切で、そのような意味で ToAのほうが(実施できるなら)優れた測位技術と考えています。
電磁波ではなく寿命の短い粒子線を使用したら、マルチパスを解決できるのではないか。
ご指摘ありがとうございます。ミューオンを使う火山やピラミッドの透視が話題になりましたが、そのような方法で測位もできたら面白いですね。
マルチパスは反射波だから、偏波面が代わるので、それで比較できないのか。
偏波面というのは電波など横波における概念で、残念ながら音波のような縦波(粗密波)は偏波を持っていません。電波のマルチパス検出に偏波面を使うことは試されていて、前のご質問でも答えています。
飛行機のモード3Aや船のAISのようなシステムを作れば、それぞれの人が行く先がわかるので、その人について行くというやり方(例えばA1出口に行く人について行く)もあろう。
ご指摘の技術は存じていませんが、信頼おけるパイロットを検出してそれに従う、ということでしょうか。新しい着想と思います。
以前、ビルの10階(窓に近いところ)で携帯スマホ(iPhone)をなくした時、パソコンからスマホを探すアプリでビルからだいぶ離れた(2~300m)地上の場所が示され、そこを探してしまいました。しかも、時間時間により移動するのです。これは衛星との角度により、地上を示してしまうのでしょうか。
基地局におけるスマホの位置認識は、GPSによる方法のほか、LTE電波のセルによる方法、WiFiによる方法など多くが同時に使われているようで、経験されたシチュエーションで主にどの検出をしていたか、不明ではあります。それが GPS (GNSS)だったとして、スマホが屋内にあった場合、電波の減衰やマルチパス等で、からなずしも正しい位置検出ができていたとは限らず、ご経験のような結果になったかもしれません。なおGPS(GNSS)の示す高度(海抜)情報は、TDoA固有の限界として、あまり正しい数値は示さず、100mくらいの誤差の伴う場合もあります。
GPSの精度は最下でどれくらいになるのか(誤差の最小は)。
カーナビなどで各点、各瞬間での測位を行うことを単独測位といって、その精度は 5m程度と言われています。特に高精度の測位を必要とする場合は、DGPS, RTK などの手法があって、たとえば 1m以内とか、センチメートル単位の測位ができます。年間数センチなどの地殻変動をGPSで測っていますが、このような方法が使われているとのことです。
自立航法の場合、衝突にはどう対応しているのか。
あまり知識はありませんが、自動車の自動運転で障害物検出をするときは、相手にあわせて赤外センサー、ミリ波レーダー、超音波センサーなどを使うようです。
YouTube動画のドローンは何で測位しているのか。かなり正確に配置されているように見える。
公表されていませんが、主導するドローンが一機あって、それは GPSで位置ぎめをしているらしいです。あとの各機は、そのドローンとの相対位置をカメラによって得ているように見えます。
利用されているスマホのキャリア、メーカー、機種名を教えてください。
実験で使用したのは iPhone 6Sです。。少し古い機種ですね。測位実験にデータ通信は必要ないので、キャリアとの契約はありません。
実用にあたっては正確な屋内地図、配置図を提供できる施設に限られると思うが需要があるだろうか。
有用性が認められて、ユーザーの要求が高まれば、地図を用意してくれる施設も増えると思っています。
P34 時間差検出精度の問題を解決しているところなど、どうやっているのかもっと知りたい。最後の装置を自分で作ることができたらうれしい。どこかで公開してませんか?
この実験は担当した大学院生(当時)の秋山君が論文にまとめてくれました。電子情報通信学会英文論文誌ですが、T. Akiyama, et.al. "Time-of-arrival-based Indoor Smartphone Localization Using Light-synchronized Acoustic Waves" Vol.E100-A,No.9,pp.-,Sep. 2017. あと、わたしの書いた解説記事が、橋爪他「汎用ビデオカメラを用いた可視光通信」電子情報通信学会誌 Vol.101(No.1) 44-51 2018年1月 にあります。ソフトははやくキットのような形で皆様に評価いただけるようにしたいと思っています。
GPSが使えなくなる理由が知りたかった。屋内、高さ、弱点は何かな?
屋内でGPSの使えないのは、基本的には電波が入ってこないから、ということです。たとえ入ったとしても、乱反射(マルチパス)がひどくて、性能を出せないと思います。
最初見たドローンはどうやって(どのような測位方法)制御方法なのか?
上の回答参照
さらに詳しく知りたいので参考資料など知りたい。位相一致法やP36の技術とか。
上の質問回答に加え、位相一致法では、橋爪他「位相一致法による正確な超音波位置認識手法とその特性」電子情報通信学会論文誌 A Vol.J91-A No.4 pp.435-447 (2008年4月)があります。
結局今、屋内測位のベストプラクティスか(場所の種類ごと)知りたかったが、まだないのかな。
わたしも10年以上携わっていますが、「これで成功した」という結果には出会えていないです。思いのほか難しい問題のようです。
結局、屋内測位は現実的なのか?
この分野の研究者は「来年こそ実用システムを作ってみせる」と意気込んでいます。乞うご期待。
カメラの1コマ1/60secをどうやって解決したか気になる
点光源で、発光を精密に制御しつつ、2フレームないし3フレーム撮影される輝度変化を観測すると、マイクロ秒精度で時刻がわかる技術を開発しました(わたしの 2018年1月の解説記事など参照)。また、CMOSという撮像素子を使ったカメラ(スマホカメラはこれ)では、面状の光源を撮影して上下方向での撮影輝度変化を解析することでも同様の精度で時刻がわかります。