研究 / Research
アーキテクチャ科学研究系

ABE Shunji
アーキテクチャ科学研究系 教授
サイエンスライターによる研究紹介
より効率的で安心な通信ネットワークを目指して
通信ネットワークの制御
通信ネットワークはいまや、私たちの生活に欠かせないものになりました。その重要性は、今後もますます高まっていくと考えられます。私は、この高度通信ネットワーク社会において、情報を素早く、スムーズに、精確に、そしてコンパクトな状態でやりとりするための研究をしています。
研究テーマの1つは、次世代の光ネットワークや、モバイルIP ネットワークなどを流れる通信量(トラフィック)を制御する方式の開発と性能評価です。ネットワークの中での情報の輸送手段や交通ルールはどうあるべきか、その仕組みは正しく機能するか、という問題に対しての研究と評価、と言い換えてもいいでしょう。
また、ネットワークを安心・安全に使えるための研究にも取り組んでいます。例えば、サーバーに対して故意に大量のデータを送ることによってシステムがダウンするDoS/DDoS 攻撃を受けるとき、これをごく初期に検出する方法や、サーバーの管理運用のための手法などの研究も進めています。
SINET の構築と運用
国立情報学研究所が運用している学術情報ネットワーク「SINET」の設計・構築から運用・管理にも携わっています。SINET は日本全国の大学と研究機関等の学術情報基盤として、研究・教育を支援し、学術情報の流通促進を図るものであり、多くの大学・研究機関等が利用しています。
2007 年6月からは第三世代となる「SINET3」の本格的運用が開始されました。SINET3 では、ユーザーの多様なニーズに応えるべく、以前のSINET よりも豊富な種類のネットワーク接続サービスを用意しています。さらに、ネットワーク情報を収集する仕組みを充実させたことにより、その情報をフィードバックするかたちで、ネットワークの多様な接続サービスの効率的かつ安定的な運用と管理ができます。さらに取得した情報の一部分を必要なユーザーや研究者に提供することにより、ユーザーのネットワーク利用の利便性の向上や、ネットワーク研究にも役立てることが期待できます。私の研究においても、これらの情報を活用し、ネットワークの制御方式、性能評価、 DoS/DDoS 攻撃検出などの検討を進めています。
ネットワーク研究から環境問題対策へ
こういった私の研究は、地球環境問題に直結している、と言ったら意外に思われるでしょうか。
パソコンが多くの電力を消費する家電製品であることはよく知られていますが、通信ネットワークも大量の電力を消費していることはあまり認識されていません。情報が爆発的に増えている今日、世界のネットワーク情報を中継しているサーバーとその周辺機器だけで、原子力発電所数基分の電力を消費しているという試算があります。情報通信方式の効率化は、通信ネットワークへの負荷を減らすことにつながりますから、エネルギー消費量と環境負荷を大幅に削減することが期待できるのです。